IFRSと日本基準の違い(従業員給付)

IFRSでは、「株式報酬」がIFRS第2号で別に規定されていますが、それ以外の従業員給付については、IAS第19号で規定されています。IAS第19号の従業員給付の分類は以下のとおりです。

1. 退職給付

2. 短期従業員給付

3. その他の長期従業員給付

4. 解雇給付

今回は、上記の中から、IFRSと日本基準との間に実務上留意すべき差異がある退職給付会計と有給休暇に関する会計処理について、解説していきます。

【退職給付会計】

日本の退職給付に関する会計基準は、2012年に改訂され、2013年4月1日以降開始する事業年度からすでに適用されており、連結財務諸表においては、IFRSと日本基準の差異はごく限られたものとなっています。

(1) 確定拠出制度

確定拠出制度においては、企業または従業員、またはその双方が、一定の掛金額を基金等の別個の事業体に支払い、その後は基金等の運用結果から個人の退職給付額が確定します。企業は掛金の支出後は何らのリスクを負わず、企業の負担は掛け金の支出時に確定します。したがって、企業は掛金額を毎期費用処理すれば足り、この会計処理にIFRSと日本基準との間に差異はありません。

(2) 確定給付制度

拠出時に企業のリスクが確定する確定給付制度と違い、退職金規定等で決まっている退職金を従業員に支給するのが確定給付制度です。そのため、企業の毎期の負担額は従業員の将来の昇給等によって変動し、基金等の積立額もその運用損益によって将来退職金に充当できる金額が変動します。そのため、確定給付制度における会計処理は、当期末の債務や当期に負担すべき費用を測定するために、将来債務の現在価値への割引計算や退職基金の数理計算上の仮定等が必要になります。この計算ロジック自体はIFRSと日本基準とで相違はありませんが、見積計算の仮定の中に、いくつか差異が残っています。

① 退職給付見込額の期間帰属額の算定方法

PBO計算の一部である、退職時に支給が予定される退職給付のうち当期までにすでに発生している額の算定方法が異なります。

IFRSでは、退職時に支給される退職給付の各期の負担額を計算するにあたって、給付算定式方式を採用しています。通常は勤務年数の経過にともなって退職金が増えていくので、その算定方法にしたがって、各期の負担額も計算しようというものです。ただし、勤続期間の後半に著しく退職金が増えるような算定方法になっているような場合には補正計算が必要になります。

これに対して、日本基準では、この給付算定式方式に加えて、期間定額方式、すなわち退職時に見込まれる給付の当期負担額を勤続期間で均等に負担させる計算方法(割引計算による差異は発生します)を選択することができます。

② 割引率

退職給付見込み額を現在価値に割り引くにあたって使用する割引率ですが、IFRSでは報告日現在の優良社債の市場利回りが使用されます。一方、日本基準では、これに加えて国債や政府機関債も使用できることとなっています。

また、日本基準では割引率に重要な変動がない場合、これを見直さないことができる重要性基準が明記されていますが、IFRSではそのような規定はないため、原則として割引率は毎期見直す必要があります(ただし、IFRSでも重要性の概念は当然あるので、企業にとって利率の変動が重要でないと判断される場合には、前期と同じ割引率を適用する余地はあります)。

③ 数理計算上の差異

数理計算上の差異について、IFRSでも日本基準でも、B/S上即時認識し退職給付債務の増減に反映させますが、相手勘定の処理が異なります。すなわち、IFRSでは相手勘定はその他包括利益に計上し、その後リサイクル(いったん包括利益計算書に計上し、その後P/Lで損益処理をすること)はしません。一方、日本基準ではP/Lにて即時認識するか、いったんその他包括利益に計上し、リサイクルを行います(平均残存勤務年数内の一定期間で、P/Lにて損益処理を行う)。

④ 過去勤務債務

日本基準では、上記③の数理計算上の差異と同様の処理を行います。一方、IFRSでは、債務はB/S上、相手勘定はP/L上で即時認識します。

 【有給休暇に関する会計処理】

こちらも、有名な論点です。IFRSでは、有給休暇について未払費用を計上しますが、日本では有給休暇についての基準はなく、有給休暇を会計処理の対象とする会計慣行はありません。

ということでIFRSの基準を押さえておきましょう。

① IAS第19号

IAS19号ではその第13号で、累積有給休暇に関する会計処理について規定しています。ここに、累積有給休暇とは、当期の権利をすべては使用しなかった場合に将来の期間に繰り越して使用することができる有給休暇のことをいいます。累積有給休暇は、付与時に従業員の権利が確定するもの(従業員が離職するときに、未使用の権利について現金の支払を受ける権利が与えられるもの)もあれば、権利が確定しないもの(従業員が離職するときに、未使用の権利については消滅し、現金の支払いを受ける権利が与えられていないもの)もあります。

企業にとっての債務は、従業員が将来の有給休暇の権利を増加させる勤務を提供するにしたがって発生するため、有給休暇が権利確定しない場合でも債務は存在し、しががって、認識されるべきというのがIFRSの会計処理の基本的な考え方です。ただし、権利確定しない累積有給休暇については、従業員がこれを使用する前に離職する可能性を当該債務の測定に影響させるという方法で補正を入れています。

② 有給休暇の会計処理の特徴

✓ 引当金というよりも未払給与という位置づけです。有給休暇は、無勤務でも給与を払う必要がある負債というBS重視の考え方が表れています。

✓ 有給休暇の買い取り制度がなくても、計上する必要があります(使用前に失効する可能性を考慮に入れて補正計算します)。

✓ 従業員の有給休暇の使用に関する仮定は、後入れ先出し法的な考え方をとっています。つまり、あとから付与された有給休暇から先に消化すると考えて計算します。

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