IFRSと日本基準の違い(棚卸資産)

棚卸資産の会計処理に関して、IFRSと日本基準との間に大きな差異は残されていません。

 棚卸資産の範囲

IFRSと日本基準の棚卸資産の範囲は概ね同じではありますが、いわゆる貯蔵品の扱いに違いがあります。すなわち、日本基準では、「販売活動及び一般管理活動において短期間に消費されるべき財貨」、すなわち貯蔵品は棚卸資産に含まれることが明記されています。切手や収入印紙、事務用消耗品などが貯蔵品の代表例ですね。一方、IFRSでは、このような貯蔵品が棚卸資産には含まれることが明記されていないため、基本的に貯蔵品は棚卸資産に含まれず、通常は前払費用などの科目に計上すべきということになります。

 棚卸資産原価の測定方法

日本基準では、棚資産原価の測定方法として、実際原価法だけでなく、標準原価法も売価還元法も、合理的な方法による限り、どの方法も採用することができます。一方、IFRSでは、標準原価法と売価還元法は無条件に採用することはできません。すなわち、IFRS(IAS2号)では、標準原価法と売価還元法はあくまで実際原価法の簡便法と位置づけており、「適用結果が実際原価と近似である」という条件を満たした場合にのみ、これらの測定方法を採用することができます。

 低価法の処理方法

IFRSと日本基準とでは、低価法や評価方法の定義が若干異なりますが、実質的には同様と考えていいでしょう。ただし、IFRSと日本基準とでは、低価法による損益の取り扱いが異なります。

IFRSでは、評価減する原因となった従前の状況がもはや存在しない場合、又は経済的状況の変化により正味実現可能価額の増加が明らかである証拠がある場合、当初の評価損の金額を上限として、評価減の戻入れを行います。したがって、評価損益の処理方法として認められるのは、洗替法のみで、切放し法は認められていません。これに対して、日本基準では、洗替法、切放し法ともに認められています。ただし、税務上は平成23年改正により切放し法が廃止され、洗替法のみが認められています。

 借入費用の資産化

関連する借入費用を資産計上するのは取得資産が固定資産の場合だけではなく棚卸資産にも適用されます。ただし、該当する企業は少ないでしょう。

 原価計算における製造間接費の配賦

見落とされがちですが、この製造間接費の取り扱いの違いの影響は意外と大きくなりがちですので、製造業の場合は注意が必要です。

日本基準では、固定製造間接費の配賦率は、予定操業度に基づいて計算し、原価差異は原則として売上原価に賦課します。原価差異が多額な場合には、これを売上原価と棚卸資産に配賦します。一方、IFRSでは、固定製造間接費の配賦率は、正常生産能力に基づいて計算します。原則として実際生産水準が変化した場合にも、配賦率は変化せず、したがって製品(原価集計単位)ごとの原価は変化しません。正常生産能力に戻づいて原価計算に取り込んだ額と実際発生額との差額は、原価計算には取り込まれません(原価と棚卸資産に配賦しません)。その結果、配賦原価と実際原価の差額は、自動的に期間費用として処理されることになります。ただし、生産水準が異常に上がってしまって、原価配賦額が異常に大きくなり、棚卸資産への配賦原価が原価発生額を大きく上回るような場合には、配賦率を見直す等の調整が必要となります。

図にすると以下のような感じになります。

日本基準は配賦差異を原価と棚卸資産に配賦するので、結局すべての原価項目が原価(原価または棚卸資産に分配される)になりますが、IFRSでは生産余力の部分は原価に配賦すべきではない(原価と棚卸資産に分配し、棚卸資産に分配された原価が当期の費用とならず、翌期へ繰り越されるべきではない)という考えから、この部分は期間費用として処理されることになります。

かなりの生産余力を残して稼働しているような場合には、IFRSでは、その部分のコストはダイレクトで期間費用に行くため、営業利益を圧迫する可能性があるため、意外とインパクトが大きくなる場合があるので、注意が必要です。

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