IFRSと日本基準の違いを考察していくと、基本的な生い立ちや考え方の違いに気づくことが多く、これが意外と理解の役にたつので、おさらいの部分も含まれますが基本的な構造や理念の違いをざっと見ておきましょう。
帰納的アプローチと演繹的アプローチ
まず、生い立ちといいますか、どのようにしてできたか、ですが、日本基準は、企業会計原則の前文に「企業会計原則は,企業会計の実務の中に慣習として発達したもののなかから,一般に公正と認められたところを要約したものであって,必ずしも法令によって強制されないでも,すべての企業がその会計を処理するのに当たって従わなければならない基準である。」とあるように、いわば企業会計実務の中で自然発生的にできたものの中から、公正妥当なものを抽出してできた、いわば帰納的アプローチによっています。いわば実務から理論(基準)という流れです。
一方で、IFRSは、概念フレームワークという理論的な枠組みから演繹的に導きだされた、理論の積み上げによって出来上がった(作り上げた)会計基準です。そのため、この理論の筋道を辿ることがIFRSの理解には不可欠であり、近道と言われています。
細則主義と原則主義
言わずと知れた日本基準とIFRSとの対比構造。日本基準はルールに数値基準等を織り込み、それに従って会計処理をさせることが多く、細則主義の部類にありますが、IFRSは数値基準等を極力排除し、趣旨を説明して、実務適用は現場に任せることが多いため、原則主義と言われています。
資産負債アプローチと損益アプローチ
これも有名な対比構造。ただし、日本基準は、損益アプローチと考えられがちですが、投資家、債権者、税務当局など多様な利害関係者を意識しており、損益アプローチを中心としながら資産負債アプローチも採用した折衷的なアプローチです。一方、IFRSは、まず資産と負債を定義し、その差分として損益を定義しています。主に投資家に対する財務報告目的を意識した完全な資産負債アプローチです。
親会社説と経済的単一体説
もう一点、基本的な考え方の違いで押さえておきたいのが、連結財務諸表に対する視点です。日本基準は元来個別財務諸表中心でしたので、親会社説を採っていました。ここに親会社説とは、企業集団は親会社が支配しているものであり、企業集団の実態を反映した連結財務諸表は親会社の株主のために作成されるべきとする考え方です。
一方、IFRSは、経済的単一体説を採っており、企業集団は親会社と少数株主がともに支配しているものであって、連結財務諸表は親会社および少数株主双方のために作成されるべきとする考え方を採っています。
ここで、日本では「元来」親会社説の考え方で会計基準が作られていたといったのは、少しずつ変わりつつあるためです。もともとは親会社説によっていた日本基準は、IFRSへのコンバージェンスの過程で、経済的単一体説の考え方に徐々に移行している、というのが状況です。このあたりの考え方の違いや変遷が、両者の連結財務諸表に対する会計基準の違いとして残っているので、IFRSの理解のために押さえておくと理解の助けになるのではないでしょうか。