IFRSの現状

IFRSについての心配事は、日本がIFRSを強制適用になったらどうするか、ということではないでしょうか。一時期なんとなく大騒ぎして、騒ぎは下火になったものの今どうなっているの?と思われている方もいるのではないでしょうか。

ということで、IFRSの現状をこれまでの経緯を振り返りながら見ていきたいと思います。

共通の会計基準のニーズ

1990年代の後半からでしょうか、金融・資本市場のグローバル化が急速に進む中で、財務諸表の比較可能性を確保するため、国際的に統一された会計基準のニーズが高まっていきました。国ごとに異なる会計基準で財務諸表が作られていたのではそれぞれの財務諸表数値を単純に比較できないので、財務諸表の投資情報としての有用性が下がります。グローバルに活動する企業や投資家にとって統一的な会計基準の必要性はとても高いものであることは容易に理解できるでしょう。

この財務諸表の比較可能性の確保というニーズを背景に、IFRSは統一的な会計基準としての地位をどんどんと高めていきました。

IFRSの広がりと我が国の対応

IFRSが広がりを見せた、ひとつの発端は、2000年にEUが域内のすべての上場企業に2005年からIFRSを適用することを発表したことでしょう。

直後の2002年には、米国はノーウォーク合意で米国財務会計基準審議会(FASB)と国際会計基準審議会(IASB)はそれぞれの会計基準をコンバージェンス(収斂)させることを合意しています。以降2005年には第一回目のロードマップを策定、2007年には上場外国企業にIFRSの適用を容認しました。が、そのあとは、2011年に予定されていた強制適用の決定時期を延期するなど、強制適用の動きはとん挫し、誤解を恐れずに表現するならば現在強制適用の動きは止まっています。

日本はというと、2005年に日本も米国を追随し、IFRSへのコンバージェンスに向けた協議を開始し、2007年に東京合意、すなわち「「会計基準のコンバージェンスの加速化に向けた取組みへの合意」に至りました。その後、2009年に日本版のロードマップが公表され、その中では、2010年に要件を満たす企業のIFRSの任意適用を認め、強制適用の時期は2015年か2016年、その判断時期は2012年とされていました。が、2011年に当時の金融担当大臣が会見で「少なくとも2015年3月期についての強制適用は考えておらず、仮に強制適用する場合であってもその決定から5~7年程度の十分な準備期間の設定を行う」と表明したことで風向きが一変し、強制適用の動きは止まりました。現在は、自民党が2013年に公表した「国際会計基準への対応についての提言」(提言)に基づいて、任意適用の積み上げによるIFRSの浸透が継続的に行われています。

ちなみに、この提言のなかでは、2016年末で300社程度がIFRS適用企業になるように策を講ずるとしていますが、2018年1月現在のIFRS適用企業は139社に留まっています。ただし、会社数は少ないものの、大企業が中心となって適用を始めているため、適用会社の時価総額は市場全体の30%を上回っていると言われています。

会計基準の現状

結論としては、米国も日本も、IFRSを完全に受け入れることでIFRS対応するという方法を取らなかったわけですが、それでも財務諸表の比較可能性を確保するために共通の会計基準としてのIFRSと自国の会計基準との差異をなくしていくという方針に変わりはありません。

米国は当初は自国基準を改正しながらIFRSへコンバージェンス(収斂)していくという方針でしたが、現在はエンドースメント(承認、一部不適格と考えられる部分は不採用としながら取り入れていく方法)とコンバージェンスを合わせての対応となりました。結果的には、IFRSをアドプション(全面採用)したわけではないので、米国には米国会計基準とIFRSとの2つが存在することになっています。

日本はどうでしょうか。日本も当初はコンバージェンスを精力的にすすめ、結果として2008年に欧州委員会は、日本の会計基準について、「EUで採用されている国際会計基準(IFRS)と同等である。」との決定をし、これによって、EU市場に上場する日本企業は、引き続き、日本の会計基準に準拠した財務諸表を用いて上場を続けることが可能となりました。

一方で、2015年にはIFRSのエンドースメントによってできた修正国際基準というIFRSを微修正したものを公表し、これは2016年3月期から適用可能となっています。修正国際基準は、IFRSから主にのれんの償却と有価証券のリサイクリングを修正したもので、IFRSに近いものではありますが、国際的には日本独自の基準という位置づけです。

日本の市場では米国基準とIFRSの使用も条件付きですが認められているので、結果として、上場会社が使える会計基準は、「日本基準」「米国基準」「IFRS」「修正国際基準」の4つという状態になってしまっています。

日本らしく各方面に忖度した結果とはいえ、多すぎですね。

IFRSの各国の適用状況

すこし古い資料になりますが、金融庁から平成29年に公表された「国際会計基準をめぐる最近の状況」に記載されている「IFRS財団による国際的な適用状況評価」出典のデータによると、2016年12月12日時点で、調査した149法域中、119法域がすべてまたは大部分の主要企業(上場会社及び金融機関)に対してIFRSを強制適用しています。

以下はその分布図。少し見難くて申し訳ないですが、オレンジの部分がIFRS強制適用国。EU諸国に加えてロシア・カナダ・オーストラリア・ブラジルといった面積の大きな国があるとはいえ、こうして見るとほとんどの国がIFRSを強制適用しているといったように見えます。とはいえ、非強制適用国には任意適用の日本をはじめ、アドプション済みの(同等性評価済み)の自国会計基準を使用するアメリカ・中国・インドといった経済的に重要なポジションを持つ国もあり、力関係としては一概に圧倒しているとも言い切れないようにも見えますが…。

いずれにしても、IFRSが世界でひとつのスタンダードとなっていることは間違いないので、会計に携わる方々は知っておくべきであることは間違いないですね。

≪IFRS財団による国際的な適用状況評価≫

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